第167回芥川賞・直木賞(2022年上半期)の受賞作が決定しました。今回は見事受賞した作品と受賞候補にノミネートされた作品をご紹介します。
第167回芥川賞 受賞作
高瀬隼子(たかせ じゅんこ) 『おいしいごはんが食べられますように』
第167回芥川賞の受賞作は高瀬隼子(たかせ じゅんこ)さんの
『おいしいごはんが食べられますように』です。
1988年愛媛県生まれ。立命館大学部文学部卒業。
2019年「犬のかたちをしているもの」で第43回すばる文学賞を受賞し、デビュー。
著書に『犬のかたちをしているもの』『水たまりで息をする』(ともに集英社)がある。
あらすじ
「二谷さん、わたしと一緒に、芦川さんにいじわるしませんか」
心をざわつかせる、仕事+食べもの+恋愛小説。
職場でそこそこうまくやっている二谷と、皆が守りたくなる存在で料理上手な芦川と、仕事ができてがんばり屋の押尾。
ままならない人間関係を、食べものを通して描く傑作。

周囲から大切にされて、自分の厚意が必ず受け入れられると信じている人の言動ってなんでこんなに毒になるんだろうと感じました。(現実でも)
食べ物を通して各々の価値観の違いが上手く表現されています。
心がざわつくけれど、傑作です!
第167回芥川賞 受賞候補作一覧
続いては、惜しくも受賞とはなりませんでしたが、受賞候補作に選出された作品を紹介します。今回は受賞作、候補作のすべてが女性作家という珍しい回となりました。
小砂川チト(こさがわ ちと) 『家庭用安心坑夫』
第167回芥川賞の受賞候補作2作品目は
小砂川チト(こさがわ ちと) さんの『家庭用安心坑夫』です。
1990年岩手県生まれ。慶応義塾大学文学部卒業、同大学院社会学研究科心理学専攻修了。
2022年、「家庭用安心坑夫」で第65回群像新人文学賞を受賞。同作が第167回芥川賞候補作となる。
あらすじ
日本橋三越の柱に、幼いころ実家に貼ったシールがあるのを見つけたところから物語は始まる。狂気と現実世界が互いに浸食し合い、新人らしからぬ圧倒的筆致とスピード感で我々を思わぬところへ運んでいく。
鈴木涼美(すずき すずみ) 『ギフテッド』
第167回芥川賞の受賞候補作3作品目は
鈴木涼美(すずき すずみ)さんの『ギフテッド』です。
作家。1983年東京都生まれ。慶応義塾大学環境情報学部在学中にAVデビュー。
その後はキャバクラなどに勤務しながら東京大学大学院社会情報学修士課程修了。
修士論文はのちに『「AV女優」の社会学』として書籍化。
他の主な著書に『身体を売ったらサヨウナラ』
『愛と支給に花束を~夜のオネエサンの母娘論』『娼婦の本棚』など。
あらすじ
歓楽街の片隅のビルに暮らすホステスの「私」は、重い病に侵された母を引き取り看病し始める。母はシングルのまま「私」を産み育てるかたわら数冊の詩集を出すが、成功を収めることはなかった。濃厚な死の匂いの立ち込める中、「私」の脳裏をよぎるのは、少し前に自ら命を絶った女友達のことだった――「夜の街」の住人たちの圧倒的なリアリティ。そして限りなく端正な文章。新世代の日本文学が誕生した。

淡々と物事を捉えている一人称視点の語り口です。特に情景の描写が丁寧に描かれており、思った以上の純文学的な作品でした。
純文学×夜の街で新しつつも、心にずっしりとくるお話でした。
年森瑛(としもり あきら) 『N/A(エヌエー)』
第167回芥川賞の受賞候補作4作品目は
年森瑛(としもり あきら)さんの『N/A(エヌエー)』です。
年森瑛(としもり あきら)
神奈川県横浜市生まれ。法政大学文学部卒。
令和4年/2022年に「N/A」で第127回文學界新人賞を受賞。
あらすじ
松井まどか、高校2年生。
うみちゃんと付き合って3か月。
体重計の目盛りはしばらく、40を超えていない。
――「かけがえのない他人」はまだ、見つからない。
優しさと気遣いの定型句に苛立ち、
肉体から言葉を絞り出そうともがく魂を描く、圧巻のデビュー作。

人からどう思われるかとか、この人のためにどんな風に言葉を紡いだらいいのか、
SNSによってより多くの人が関わりあうようになった現代は露骨に「他者にどう思われたいか」
という理想に囚われがちです。
正解などない世の中で、もがきながらも人を想う気持ちを大事にしたいと思える作品でした。
山下紘加(やました ひろか) 『あくてえ』
第167回芥川賞の受賞候補作5作品目は
山下紘加(やました ひろか)さんの『あくてえ』です。
山下紘加(やました ひろか)
1994年、東京都生まれ。2015年、『ドール』で第52回文藝賞を受賞しデビュー。
著書に『クロス』『エラー』などがある。
あらすじ
あたしの本当の人生はこれから始まる。小説家志望のゆめは90歳の憎たらしいばばあと母親と3人暮らし。ままならなさを悪態に変え奮い立つ、19歳のヘヴィな日常。
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